・・・・よろしくない。実によろしくない。なんだこの状況は。
前回のレースでジベルノーが引き起こした大事故以降、まるでタガが外れたかのように怪我人が続出のMotoGPである。その中でもロッシの骨折というのはなによりショッキングで、ロッシと言えば「上手い転び方」の代名詞だっただけに、まさか走行に支障をきたすレベルの負傷を負ってしまうとはつくづく流れの悪さを感じざるを得ない。
それになにより今回は、ロッシの骨折した場所が悪かった。
手の骨 - 右手を掌側から見た図・Hand bone.png - Wikipedia右手首の豆状骨というのは手首にぽこっと飛び出てる骨で、図解から見るにこんなもんなくてもよさそうに思えるんだけど、実際は手首の動きに物凄く影響が大きな骨だ。試しに自分の手首を動かしてみれば分かる。特に「ひねり」方向の動きに対して、筋肉の筋の動きの影響をモロに受ける。もともとが複雑な骨が組み合わされている部分だ。そこのパーツのひとつが欠けただけでもそれがどれほどの影響を及ぼすかは言うまでもないし、特にモーターサイクルコントロールにおいて、右手の動きというのはキモ中の肝だ。ブレーキ、ステアリング、アクセル。その全てが右手首の微妙な動きによって行われている。しかも休み無くだ。ロッシは骨折が判明した後も、無理矢理FP〜QPを走っているようだけど、悪いことは言わないし、これは個人的なお願いとしても、右手首の怪我が完全に癒えるまでは走って欲しくない。ポイント云々はもはや冷蔵庫の奥にでもしまっておけ。ここで無理をして症状をさらに悪化させれば、今後のロッシのレース人生そのものにも暗い影を落としかねない。これがその他の箇所の骨折なら僕もここまでは心配しないけれど、今回は場所が場所である。さすがに黙ってはいられない。加えて言えば、左足首の骨折というのも致命的だ。これではシフト操作も満足にできまい。これが右足だったらまだ救いもあっただろうに・・・。
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前戦のストーナーもそうだし、今回のロッシのクラッシュもそうだったらしいが、ここ数戦で派手なハイサイドによる転倒が急に増えた気がする。ちょっとまえまでは、クラッシュったってスリップダウンが主で、転んだ先でグラベルにひっかかったマシンが宙に舞い上がることはあっても、ハイサイドでダイレクトにマシン共々ライダーが吹っ飛んでいくシーンというのはあまり見なかった。それがここにきて再燃したのは何故か。
・・・まさか。
僕はこのところのエントリーで、マシンのフレームの横剛性を落とすというトレンドに疑念を発してきた。今季のM1が、当初タイヤとのマッチングが悪くチャタリング(バイブレーション)に悩まされていると聞き、「それはフレームの横剛性を落としすぎたせいだ」とずっと言い続けてきた。
フランスから投入された新しいM1のシャシーは、その縦横の配分はどうなっているかは分からないが、旧型に比べてフレームの剛性を上げてきて、現にそれによってロッシの走りが見違えたことから「それみたことか」とひとりごちていたのだが、結果それが今回のロッシのハイサイドによる転倒を招いたのだとしたら、やはりフレームの横剛性は低めに見積もらないとだめなのか?と自分の考えを疑う向きもなくはない。今回の転倒時のロッシのコメントを見るに、まったく身構える暇もないほど急激なスライドとグリップ回復によってハイサイド状態になったらしいのである。これは剛性を高めたフレームによって、ヨーレイトの緩衝材としての役割が弱められたせいなのかと思うのである。あちらを立てればこちらも立たず・・・。
フレームの問題を差し置いて、クラッシュ連発の原因に、タイヤの構造変更というのもあるのではないかと思っている。先のチャタリング問題への対処にはタイヤメーカーも同時に動いていて、チャタリングを軽減させつつもグリップを高めたタイヤの開発というのがどうやら進んでいるらしい。このあたりは情報も少ないのであくまで推察だが、特にミシュラン、ブリジストンあたりの対処を見るに、それはタイヤのコンパウンドではなくストラクチャー(構造)で、このチャタリングとグリップの問題に取り組んでいるようだ。
これも僕の想像でしかないが、ミシュランはここ数戦で、タイヤのサイドエンドの構造を柔軟にすることでグリップを高めつつ、タイヤと路面の接地点で発生する振動を緩和させるようなダンピング特性を持ったタイヤを投入したような気がしている。これはここ数戦、たまに速さをとりもどす玉田選手の走りから「もしかしたら」と思うところである。彼のようにタイヤのサイドエンドのグリップ「のみ」で旋回するような走りの場合、ミシュランのこれまでのタイヤのように、あくまでライダーの操作によって与えられる荷重変形によってグリップを向上させるタイプのタイヤでは満足に走れなかったはずで、それがミシュランにタイヤをスイッチした後の玉田選手の不振に端的に現れていたというのが僕の考えだ。それがここにきて、彼のコメントからも時折「フロントの手応えが戻ってきた」というようなことも聞かれ始めたことから、構造の変更を行ったのではないかということが伺える。ただそれが安定しないのは、玉田選手自体の走りの不安定さの他に、ミシュランもいろいろ試験的にさまざまなコンストラクチャーを持ったタイヤを供給しているのではないかと思うのだ。
ロッシの今回の転倒は、もしかしたら旧来の構造(固めのサイドエンド)のタイヤで、かつ固めのコンパウンドを選んだが為に起こったのではないか。ロッシの転倒時は天候も安定せず、路面温度も低くかつウェットが残るようなものだったらしいから、そこで構造とコンパウンドの選択を誤ったタイヤで走り出してタイヤのインフォメーションが得られず、かつフレームの剛性が上がったことによっても路面からのインフォメーションが遠くなり、不安定な路面でグリップを探りつつの走りだったにも関わらず、急激なスライドとタイヤグリップの回復に対処できず、ハイサイドに陥り転倒した、と。あるいはソフトなストラクチャーのタイヤが奥の方で発生するグリップを固いフレームがライダーに伝えず、手応えのないままグリップの高まりきったところで放り出すようなことになったか。真実は分からないが・・・・。
(このあたりのことは
インテリさんのリポートにあるロッシのコメントから伺える)
ちなみにブリジストンはリヤタイヤのインチサイズを落とす(16.5→16インチ)することでタイヤ自体の縦の肉厚を増やすことでダンピング特性を穏やかなものにし、チャタリングへの対処としたようだ。もともとブリジストンは(ミシュラン比で)コンストラクトもやわらかく、かつコンパウンドもソフト寄りだったようだけど(だから予選一発は速い)、今回は方法は違うとはいえ、ミシュラン、ブリジストン共に狙いは同じで、タイヤ自体にいかにダンピングの役割を持たせ、かつ高いグリップを発揮させるかということを狙っていると思われる。
*ニュース的なアナウンスメントはないが、リヤの16インチ化はミシュランの方が先にやってたのでは・・・。写真で見るに、中国あたりのロッシのM1のリヤタイヤはすでに明らかに小径サイズだった。
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かつて'90年代初頭、2スト500ccマシンが、そのパワーに対して十分なタイヤグリップが確保できない、マシンバランス的におかしな時期があって、その時期にはいまと同じようにレースの度に誰かが転び、かつ大けがをし、そのレースはまるで身障者による我慢大会、ケガを抱えたままいかにレースを走るかという見るに耐えないものになり、僕はしのびなくなってレースを観るのをやめてしまったことがある。
もしMotoGPがあのころのWGPと同じような状況になるとしたら・・・・。
安全に走りきってこそのレースである。そうでなくては、ライダーのテクニックも、マシンのテクノロジーも、適切に活かしきることなどできはしない。来季の800cc化のこともある。技術的端境期とも言えるいまだからこそ、マシンやタイヤの開発は慎重に行う必要があると改めて思う。そこでは進歩の早さより確実な安全を選択してもらいたい。
参加するライダーが万全の状態で集い、思い切り走りきることを切に願う。